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【2006年9月26日】
<スモールBIZ>「自分らしい起業」カタチに──診断士20人が指導/「客観的な目」で分析(9月26日)
起業セミナーで受講者にアドバイスする北口祐規子さん(大阪市天王寺区)
起業セミナーで受講者にアドバイスする北口祐規子さん(大阪市天王寺区)
 大阪の女性中小企業診断士が、女性起業家や創業者を生み出そうと奮闘している。事業計画の立案を支援したり、ビジネスプランコンテストを主催したりするなどして、女性の夢をカタチにする手助けをしている。女性は経験や資金の不足から比較的起業が難しいといわれているが、的確なアドバイスを与えることで起業への指針と希望を与えている。

 「どうやって値段を付けたらいいのですか」「まず他社の類似するサービスと比較して考えましょう」

 中小企業診断士の北口祐規子さん(52)が、セミナー受講生の錦織玲子さん(44)の問い掛けに熱心に答える。

 北口さんが代表を務める女性診断士の研究会「ピザの会」は、起業を目指す女性を対象にしたビジネスプラン作成セミナーを開催している。北口さんのほか約20人の診断士が指導にあたっている。

●志抱く主婦増加

 同セミナーはビジネスのアイデアを持ちながら、どのように事業化していいのか分からない人が対象だ。受講生は学生やOL、主婦など年齢も様々だ。最近では「主婦が門をたたくケースが増えている」と北口さんは言う。

 「何から手を付けていいのか分からなかった」。錦織さんも主婦起業を志す1人。これまで起業とは縁遠かったが、趣味で始めたフラワーのアレンジメントの楽しさをもっとたくさんの人に知ってもらいたいと、教室を全国展開することを目指している。

 「起業には、事業への熱い思いとそれを客観的に見つめる力の両方が必要」と北口さんは言う。たいていの女性の場合、後者が欠けている。それをフォローするのが北口さんの役目だ。

 まず、自分のアイデアを客観的に見つめてもらう。競合他社とどの点で違うのか、強みと弱みを紙に書かせて分析させる。「セミナーに参加したおかげで起業への道筋が見えてきた」と錦織さんは満足げだった。

 北口さんは大学卒業後、ソフトウエア開発会社に就職。結婚・出産後も、子どもの面倒を母親に任せ、家事や育児より仕事を優先させてきた。しかし学生時代の同窓生を見ていくうち、自分も子育てにかかわりたいと考えるようになり、退社。家事や育児をしながらできる仕事をと考え、中小企業診断士の資格を取得。個人の経営コンサルタントとして活動してきた。

●熱い思いを重視

 転機が訪れたのは、新事業創出促進法(当時)の改正が施行された2000年ごろだ。国が個人の起業を後押しするようになってから、「中小企業診断士も起業を支援すべき」と考えるようになった。大阪府中小企業支援センター(大阪市)などを通じて、これまで約300人の起業や創業に携わってきた。

 その中の1人、池見正子さん(59)は世界各国のスカーフやアクセサリー、バッグといった雑貨を自らの足で買い付けて販売している。通常の男性のアドバイザーに助言してもらうと、クライアントの事業への熱い思いをなおざりにして、いかにビジネスとして大きく収益を上げられるかを重視しがちだ。

 しかし北口さんは違った。池見さんが抱く、たくさんの種類の商品を少しずつ売りたいという思いを重視。身の丈にあった事業計画を練り上げた。

 「起業しようとする女性たちは必ずしも皆、大きな金額の収入を得ようと考えていない。例えば主婦なら、夫の稼ぎ以外の副収入として、趣味の延長として起業にチャレンジしたいという人も多い」という。起業の目的は人それぞれ違う。それぞれの人が「『自分らしい起業』ができるよう支えていきたい」と強調する。

 北口さんが10年前に立ち上げた「ピザの会」も、当初は「企業内の女性の働く権利を守る」活動が目的。しかし、女性の起業や創業を支援することも時代のニーズと判断した。「ベンチャーキャピタルのようにお金を出して支援するわけではないので、出せる力は限られる」と謙遜(けんそん)する。それでも、北口さんの的確なアドバイスを受けようとする起業家の卵たちは後を絶たない。

 何よりうれしいのは、起業にかかわった人たちから「起業して○年がたちました」「ついに2店舗目を出しました」といった便りを受け取ることだという。女性たちの夢の実現を後押しする取り組みは、いつか地域経済の担い手であるスモールBIZを生み出すかもしれない。
(大阪経済部 鈴木洋介)